バスケットボール競技で大きな怪我となり手術が必要となる前十字靭帯損傷は長期離脱となってしまい、特に学生の限られた期間の中での活動ではしっかりと予防する為の知識やスキルを習慣化することでリスクを軽減できます。
バスケットボールを例に解説していきますが、他競技でも同様なのであなたが関わる競技をイメージして対応していただければと思います。
私は現在プロバスケチームでアスレティックトレーナーとして活動して24年間となります。
プロ選手では今まで1名も前十字靭帯損傷を起こしていないので原因を理解して予防策が有効だと考えます。
前十字靭帯はどんな役割があるか、損傷には6つの原因があると考えています。
この辺りを把握して取り組むことでアクシデントは仕方のないケースもありますが発症率は抑えることが可能と思っています。
【結論】
・前十字靭帯は大腿骨に対して下腿が前方に引き出すことや捻れを抑える役割がある
・前十字靭帯を損傷したら膝関節の変形が起こりやすくなる為将来的にも手術がベスト
・スポーツの中でも回転系や捻れが起こりやすい、身体接触のある競技では手術が必須となる
・前十字靭帯損傷には6つの原因があるので対応策の取り組み習慣化でリスク軽減は可能となる
損傷してしまうと6-10ヶ月程度競技離脱となりリハビリ期間となってしまいます。
学生では限られた大会日程など大きな時間損失となってしまいますので競技だけでなく怪我に対する対策も遂行する習慣が大切です。
膝の構造と前十字靭帯

膝には安定させる靭帯があり、この中でも最も重要になるのが前十字靭帯であり、手術が必要となるケースです。
その他の靭帯は手術するケースもありますが、保存療法でも対応できるケースもあります。
膝の構造と靱帯
膝には膝関節を安定させる為の靭帯があります。
・前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)
・後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)
・内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)
・外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)
前十字靭帯と後十字靭帯は膝の中にあり、中でクロスして膝の前後の動きを制限しています。
内側・外側の側副靭帯は左右のぐらつきを制限する役割があります。
膝関節の安定には内側と外側の半月板があり、安定感と衝撃の吸収とスムーズな動きを行い骨への負担を軽減させています。
前面には膝蓋骨(しつがいこつ)があり膝蓋靭帯となり脛の骨についています。
前十字靭帯の役割
前十字靭帯の役割としては大腿骨に対して下腿が前方に動くのを制限する働きと捻る動きに対する制限があります。
もし前十字靭帯が損傷してしまうと前後の動きが大きくなり半月板への負担が増加して半月板の損傷するリスクが高くなります。
理解しておくべき前十字靭帯損傷のメカニズム

急にストップや切り返しの動作では大腿四頭筋の緊張により前方への誘導が大きくなってしまい、膝がズレる感覚や外れる感覚が発症してしまいます。足先に対して膝が内側に入りやすいケースで負担がかかりやすくなるので捻れが起こったり、ターンが多い競技では損傷のリスクが高い点や二次的損傷も起こりやすいわけです。
そのためバスケットホール、サッカー、バレーボール、ラグビーなどの球技やスキー、スケートなど回転の多い競技では特に損傷しやすい点があり、手術の必要性が必須となります。
前十字靭帯損傷の受傷機転
バスケットボールで起こる前十字靭帯損傷の受傷機転としてはいくつかあります。
・膝が内側に入ってしまい非接触にて発生
・ディフェンスの切り返し動作で非接触にて受傷
・ロングパスに跳びついてボールをキャッチした際の着地にて受傷
・強引に相手を交わしてステップを踏んだ着地で受傷
・接触してバランスを崩して着地して受傷
このようなシーンでバスケットボールでは発症しやすい傾向です。
前十字靭帯損傷した際の特徴としては膝を抱え込んで痛がるシーンをよく目にします。
選手によってはそのまま立ち上がって歩くことができるので軽傷と判断してしまうケースもあります。
※受傷直後は誤診しやすいので注意
前十字靭帯損傷をチェックする徒手検査はいくつかあります。
ラックマンテストは代表的です。
受傷直後はハムストリングスの筋緊張もあり、ラックマンテストでエンドポイントを確認できるケースがありますが、よく現場で受傷直後に徒手検査をすることでテンションを感じ取れてしまい誤診してしまうケースが医師でもトレーナーでも起こってしまいます。
そのため正確には時間をおいてから実施する、整形外科でMRI検査を実施するという事で確定要件となります。
膝の捻れと関節のゆとり
個人的な考えとしてですが、関節には少し遊び部分があってゆとりがあることで滑らかな動きが実現できています。
筋肉や筋膜の疲労によって筋肉の張り感やツッパリ感が強いと関節のゆとりがなくなってしまいます。
さらに関節に筋肉のバランスや動作習慣で捻れが起こることで靭帯のゆとりが軽減してしまいます。
疲労して筋肉の緊張が強いことや筋肉のバランスで捻れが生じることで靭帯に負担がかかりやすい状態となっているという事です。
そういった状態でスポーツ時に瞬間的な力がかかることで前十字靭帯損傷につながってしまうのだと考えています。
バスケットボールで起こる6つの原因

バスケットボールで起こる6つの原因としていますが、他競技でも同様ですので参考にしてください。
前十字靭帯損傷の6つの原因
1.筋力不足と筋持久力不足
2.動作習慣による影響
3.疲労の蓄積による影響
4.接触によるアクシデント
5.プレイスタイルによる影響
6.体脂肪率による影響
1つづつ解説していきます。
1.筋力不足と筋持久力不足
そもそも自分の体(体重)をコントロールする筋力が不足していれば怪我の発生率はどの部位でも高いです。
筋力の増加はパフォーマンス力を高めるだけでなくむしろ怪我を防止するために必要となります。
・瞬間的に発生する最大筋力
・筋肉の力発揮を持続するための持久力
・筋肉のバランス
この辺りは特に重要な点となります。
例えば前十字靭帯は下腿が前方にズレるのを防ぐ役割です。
前面にある大腿四頭筋は収縮することで下腿を前方へ引き出す力が加わるため後面のハムストリングスの筋力とバランスも必要となります。
2.動作習慣による影響
前十字靭帯に負担がかかるのは捻れを起こす事です。
上写真中央のような足先が外を向き、膝が内側に入ることでリスクが増加します。
この辺りは競技特性によっての影響もありますが、いかに負担を軽減させて動きを改善することで怪我の予防だけでなく、競技力にも影響しますので悪い習慣を良い動きに修正していくことも必要となります。
3.疲労の蓄積による影響
上記でも解説しましたが、疲労によって筋肉や筋膜の緊張により関節のゆとりが減少してしまいます。
疲労からさらに筋肉のバランスや関節可動域にも影響してさらに関節のゆとりが低下してしまいます。
怪我の大元は疲労から起こり、疲労することで筋緊張や硬結部位などが起こることでバランスも悪くなってきます。
すると柔軟性が低下して可動域が悪化し、関節に捻れが生じてきます。
靭帯にかかる負担が起こりやすい状態となって、瞬間的なストレスによって靭帯損傷が発症してしまうという考えです。
4.接触によるアクシデント
スポーツの中では特に身体接触があるコンタクトスポーツではアクシデントも起こってしまいます。
また環境によっても影響します。天候や気温によって汗によって体育館では床が滑りやすい状態となり、屋外競技では雨天時は滑りやすくなってしまうケースもあります。
そのような際に接触にてバランスを崩すことで着地にて受傷してしまうケースもあります。
特に不意打ちやカウンター要素のケースでは受け身も取れず、さらに空中で接触して着地に失敗してしまうケースもあるわけです。
この辺りは防ぐことが難しい点はありますが、いかに競技上でそのようなシチュエーションもイメージして対応策として実施しておくかでも軽傷で防げる可能性もあります。
5.プレイスタイルによる影響
競技特性や個人のプレイスタイルによっても怪我の発生頻度は異なってきます。
・男女での違い
・女子では能力の高い選手の受傷率も高い
・突進型のタイプは怪我のリスクは全体的にも高い
・ポジションによっても影響する
・プレイスタイルによっても影響する
このようなことは実際に起こってきます。
バスケットボールの場合ではファストブレイクで縦にロングパスを出す速攻を得意とするチームでは発生率が高くなります。
この辺りはリードパスでの無理したジャンプキャッチから受傷してしまうケースがあります。
ブレイクシステムを縦パスではなく、一度サイドに展開してミドルアタックでボールを繋ぐだけでもリスク回避が実際にできたチームもあります。
チームで多数発症してしまうチームには何らかの問題があるので改善策として考慮する必要もあるでしょう。
6.体脂肪率による影響
体脂肪率といっても測定方法によって数値が異なってきます。
体脂肪率を測定する方法としては体重計タイプはインピーダンス法、皮下脂肪厚から算出するキャリパー法とあります。
上記の2つの方法が一般的ですが、数値が実際には異なってきます。
個人差もありインピーダンス法の方が体脂肪率が高く出やすい傾向ですが、人によってはインピーダンス法の方が低く出る方もいます。
アスリートではインピーダンス法で測定するケースが多く前十字靭帯に影響するのは男子では18%以上、女子では20%以上だと自己コントロールに影響がありリスクが高くなります。
バスケットボールでは特に中学生や高校生のぽっちゃりタイプではやはり体重に対して筋力が不足しているため、特に練習や試合の終盤になると疲労要素も加わることで筋出力が低下しリスクが高まってしまいます。
体脂肪率が多いと持久力に明らかな影響がありスタミナバテしやすいことも要因の一つとなります。
皮下脂肪厚から体脂肪率の算出の詳細はこちらを参考に↓↓↓
>>【キャリパー法】皮下脂肪厚データから得られる体組成5項目を有効活用する
手術の選択肢とそのタイミング

前十字靭帯損傷してしまうと手術をすることが将来的に変形性膝関節症になりやすい点から実施すべきだと思います。
前十字靭帯損傷しても直線的なランニング等では大きなダメージはなく十分運動できる状況でありますが、急激なストップやターン、カッティング動作や回転などの複合的な動作を繰り返す競技ではギビングウェイと言いますが、膝がずれて外れる感覚となります。
このようなことが繰り返すことで関節や半月板にダメージが出て変形性膝関節症となってしまいます。
※上の写真では実際に内視鏡で全十字靭帯が断裂してしまった写真です。
バスケを続けるには手術が必須
バスケットボールなどの球技では前十字靭帯損傷では上記の通り手術が必要となり、再び競技復帰を良い状態でするための手段として最適なことが手術です。
前十字靭帯の手術は6ヶ月から10ヶ月程度のリハビリ期間を経て競技復帰となるのでメンタル的なサポートも大切となります。
中学生の場合はまだ成長する時期となり骨の成長線がはっきりしていれば手術することができない状況となってしまいます。
まだ身長が伸びる骨の成長する部分に穴を開けて靭帯を再腱するため成長期では時期的に不適合ということとなり高校生になってから実施することになります。
中学生や高校生ではスポーツ活動にも試合や大会のタイミングや時期があるので限られて活動期間の中、運動制限しなければならない為、競技力にとって大きな損失となってしまいます。
いかに予防スキルが大切になるかということを個人だけでなく、チームとしても対応しなければならない点です。
手術のタイミング
前十字靭帯は競技にもよりますが、手術することを前提に保存療法で筋力強化、動作習慣の改善、テーピングやサポーターにて対応することは可能です。ただし、半月板の損傷などリスクは十分あるということです。
この辺りはチームにアスレティックトレーナーが毎日いるかによってもリスクの状況は変わってきます。
高校生はインターハイや国体、バスケではウインターカップなどの全国大会やその予選など大会の時期があり、どこに標準合わせるかもその後の進路に影響する場合があります。
受傷して最後の大会に出場したいという事も影響してくるので、いつ手術をするのかという方針も決めなければなりません。
その先の所属先が決まっているのであればすぐに手術をして今後に備えることも選択となりますし、最後の大会に出場してから手術をするということもリスクがある前提で選択肢もできます。
もちろん受傷して保存でも筋力が十分競技可能なレベルかによって出場するべきではないケースもあります。
学生スポーツは期間が限られている点が難しいことでもあります。
個人スポーツとチームスポーツでも判断基準が異なってくるわけです。
後悔しない選択をしてほしい限りです。
保存療法による二次損傷
保存療法ではリスクがあるという点は理解しなければならない点です。
ただやりたいという気持ちだけで判断するのではなく、二次的な損傷があることも理解して対応すべきです。
そのためには筋力強化、動作習慣、脱力してしまう動作、テーピングの巻き方、セルフケアや治療、このようなことを毎日継続して実施しなければならないので本人の努力も必要となってきます。
いかに保存療法中に悪化させずに対応できるかということもプラスされます。
自己管理できるメンタルも必要となり、あなたをサポートしてくれる家族や仲間も必要となります。
予防策がアスリートの未来を救う

前十字靭帯損傷は予防策を理解していること、損傷してしまう6つの原因の理解、継続できる対応策の実践によって軽減できます。
・予防策の理解
・損傷してしまう6つの原因
・対応策の実践
個人によっても差があるのでやるべきことを明確化して、努力を継続することを理解して習慣化することです。
怪我をしたから必要性を感じて行動できるようになるのが普通の感覚です。
しかし、前十字靭帯を損傷してから気づいても、あの時言われたこと実施しておけば…と後悔してしまいます。
予防策があることさえも知らない方もたくさんいます。
指導者や経験値のあるトレーナーの指導が無くして予防策には展開していきません。
競技のことだけでなく、健康の上、怪我をいかに予防するかという事も知識として知り、予防スキルという技術もあるということを今回理解してほしいと願っています。
筋力強化で負担軽減
筋力強化はあなたの体を守る最も有効な手段です。
筋肉にも収縮の仕方が3つあります。
・コンセントリック(求心性筋収縮)・・・筋肉が縮んで働く
・エキセントリック(遠心性筋収縮)・・・筋肉が伸ばされながら耐える働き
・アイソメトリック(等尺性筋収縮)・・・関節が固定されながらも力発揮する働き
上記の3つの筋収縮の強化をする必要があります。
さらに筋持久力や乳酸消去する能力などのエネルギー供給システムとしても強化していく必要があります。
・ATP-CP系・・・無酸素状態およそ7.8秒間の持続力
・乳酸系・・・33秒間の持続力
・有酸素系・・・無限大の持続力
乳酸が溜まる閾値をLT値とも言いますが、乳酸を処理する能力が低下し疲労としてダメージが出てくる閾値となり、これらの能力を高めるほど持久力やスタミナに影響するわけで競技特性に反映されます。
セルフケアで関節のゆとりを出す
筋肉や関節の状態をいかに良い状態に保つ、改善するということはとても重要です。
特に疲労すると筋肉が硬く縮むことで柔軟性が低下し、関節可動域が悪くなり、関節のゆとりが低下することで怪我の発生が増加します。
そのためには自分でできるセルフケアをしっかりと行い、対応できない点を治療してもらうことで良い状態を保つことができます。
セルフケアには
・患部の炎症が強ければアイシング
・筋肉の柔軟性低下にはストレッチ
・筋肉の違和感や張り感にはマッサージや治療器
・筋膜リリースにはトリガーポイント
・可動域が悪いならROMや筋刺激
・筋力回復強化にはトレーニング
このようなことが自分でも実施可能な点となり、いかに継続して維持向上できるかということになります。
体脂肪率が多いとリスク増加
体脂肪が多いとスタミナに影響し、自体重のコントロールが難しくなります。
体重だけでは体重が減少しても筋肉量が減ってしまえばダイエットしたということで強化に繋がりません。
体脂肪率も含めた身体組成を測定し、周囲計を測定することでより体の評価する項目が増加します。
例えば
体脂肪率が減ると大腿周囲計が減少する事もあります。脂肪が落ちたことでサイズダウンし筋肉量が増えていないケースです。
体脂肪率が減ってさらに大体周囲計が増加していれば脂肪が落ちて、筋肉量が増加したということになりとても良い結果となります。
このような測定データは自分自身が取り組んだことの評価材料になります。
PDCAとよく言いますが、計画し実行し評価して修正してというPDCAをなん度も繰り返すことでトレーニング、食事、休息の取り組みが良い方向に行っているのか、現状維持なのか、悪い方向へいっているのか確認ができるわけです。
負担がかかる動作習慣を改善する
前十字靭帯損傷しやすい動作として足先が外、膝が内側に向くことで捻れが生じてリスクが増加しやすくなります。
個人でも動作習慣や関節のアライメントは異なるので、個人に合う対応を実行する必要があります。
私は股関節の動きを常に意識しています。
股関節は球関節で丸い構造であらゆる方向へ動く関節となります。
その分安定性に欠ける関節であるため動きが個人差や制限がかかっている選手が多いです。
股関節の動きが良いと膝への負担を股関節で吸収することができ、膝への負担を軽減させることができます。
競技によっても特徴があると思いますので、この辺りは個人メニュー、チームメニューなどアプローチの仕方もトレーナーの知識経験が活かせる場となります。
まとめ
今回、バスケ選手に多い前十字靭帯損傷の6つの原因と予防策として紹介させていただきました。
【まとめ】
・前十字靭帯は大腿骨に対して下腿が前方に引き出すことや捻れを抑える役割がある
・前十字靭帯を損傷したら膝関節の変形が起こりやすくなる為将来的にも手術がベスト
・スポーツの中でも回転系や捻れが起こりやすい、身体接触のある競技では手術が必須となる
・前十字靭帯損傷には6つの原因があるので対応策の取り組み習慣化でリスク軽減は可能となる
前十字靭帯損傷はスポーツの中でも特に膝で多く長期離脱せざるを得ない怪我となってしまいます。
いかに予防できるかは特に学生時に人生にも影響してしまうケースもあります。
予防できることは知識として理解すること、実行すること、継続することの3点が必須となります。
今回の記事が前十字靭帯損傷の予防をしたい人、受傷してしまった方の参考になれば嬉しく思います。